大磯でゆっくりとしたクリスマスの朝を過ごした二人は、西嶋が運転するシトロエンで東京に帰ることになった。
乗ってきたレンタカーで帰るという将を、
「まだ雪道で危険ですから。それに、坊ちゃんはお勉強があるんですから、せめて車の中では休んでください」
と西嶋が頼むようにして申し出たのだ。
レンタカーのほうは最寄の営業所に取りに来てもらうことにした。いわゆる『乗り捨て』制度を利用するわけだ。
雪は、邸宅をあとにする昼前になっても、雫を陽光に煌かせながらその大部分が残っていた。
「それでは将さま、聡さん、また来て下さいよ」
朝食をつくってくれたハルさんも長靴で見送ってくれる。
庭の雪はよけてあったが、日陰になっている道路の上は、踏み固められた固い雪がまだしつこく残っていたからだ。
シトロエンのトランクには、雪が降る前にハルさんが収穫したという冬野菜が山のように入っていた。
聡のためと、将の義母の純代への土産がわりとハルさんが持たせてくれたものだ。
「受験がんばってくださいね。きっと御大が見守ってくださいますよ」
あけた車の窓をのぞきこむようにしてハルさんが見送ってくれた。
「ありがとう、ハルさん」
「聡さんも、お元気で。お産はお手伝いしますからね」
「ありがとうございます」
お礼を言いながら、また瞳が潤んでいる聡を将は見逃さなかった。
義母の純代がさりげなく世話をしているらしいが、初めての出産である。しかも、結婚もしない不安定な状態。
将を良く知るハルさんからの言葉だけで、こんなに睫を瞬かせるとは……将は聡の日頃の不安を思いやった。
車が動き出して、聡は、じっと涙を飲み込むように下を向いていた。
「アキラ……ごめんな」
「え、どうして?」
聡は涙を手の甲でぬぐって、顔を上げた。涙で目は濡れていたが、いつもの調子は戻っていた。
「不安にさせて……」
将は聡の膝の上に置いた手の甲に、そっと掌を重ねた。
「あ、また動いた」
聡は突拍子もなく呟くと、将の顔を見て、くすりと微笑んだ。
「謝るより、勉強……って、ひなたちゃんも言ってる」
「なんだよ、それ。……ちゃんとやってんじゃん」
将は笑うと、聡の手をぎゅっと握った。
聡は、頑張ってよ、と続けようとしたが、言葉は喉でつまってしまった。
将は、仕事との掛け持ちの中で、すでにせいいっぱいやっているはずだったからだ。
これ以上、はっぱをかけるのは……聡のための利己主義のような気がして、聡は喉でつまった言葉を飲み込んだ。
そうとも知らず、将は聡の肩に寄りかかってきた。
西嶋はもちろん前を向いて、一心に運転に集中しているそぶりを見せている。
彼なりに気を遣っているのだ。
「……俺、冬休み、アキラんちに英語の特訓に行こうかな」
「そんなの、ダメに決まってるじゃない」
聡は将のぬくもりと重みを肩に感じながら、突っぱねる。否定に似合わない甘い語調
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