第24話 握り合う手(1)

「俺さ、アキラが頼ってくれて、めっちゃ嬉しい」

最初の角を曲がる前に将ははずんだ声で告げた。

「頼ったなんて……」

反射的につい、意地をはったセリフがこぼれてしまった聡だが、今回の場合は明らかに『頼って』いたことに相違ない。

「……そうね。どうもありがとう」

と素直に感謝の言葉に言い換えた。が

「手間をかけてごめんなさいね」

と『大人』を強調しようと、気遣いの言葉も末尾に付け加えた。

「何いってんだよ。いくらでも頼れよ。俺アキラのためなら何でもやるんだから」

信号待ちになり、将は顔を軽くこちらに向けてくる。ヘッドライトにてらされた左頬に線のような傷があるのを聡は見つけた。

「頬の傷、どうしたの」

将は傷にいままで気付いていなかったようだ。バックミラーで確認して

「ほんとだ。あのヤロー」

と小さくつぶやいた。夕方に松岡を助けたときに、前原のナイフの先がかすったらしい。しかしそんなことは聡に言う必要はない、と将は判断した。

「なんでもないよ」とミラーを戻すと、
「さーて、どこに行こうかー?」とおどける。

「バカいわないの。明日も授業あるでしょ」

将は「チェー」といいながらも

「でもちょっとぐらい夜のドライブに付き合ってよ。呼び出したお礼にさ」

と車線を変更した。

聡は本当は疲れているから、早く帰りたかったのだが、まあ仕方ないか、とあえて異論は唱えなかった。

車は首都高に乗った。進む先には星を撒いたような都心部が、空に半月を浮かべて展開していた。

「で、井口くんの事情って何なの」

まるで恋人のような雰囲気に抵抗するため、聡は教師としての責任感を前に出した。

「ああ」

将は井口に引きこもりの兄がいることを説明した。

「たしか、アキラと同じぐらいのトシじゃなかったかな。すっごいベンキョーができたみたいで、××大に進んで、一流企業っていうのかな。……に入ったんだけど、1回仕事で失敗しただか、でそれっきり」

親も黙って見ているだけでなく、いろいろするらしいが、そのたびに修羅場になり、それが井口に飛び火することも少なくない、という。

「……ちょっと可哀想なやつなんだ」
「そう……」

でも聡はあのピアスだらけの風貌の井口がどうしても恐ろしい。

「だからさ、あんなふうにオッパイみられて悔しいと思うけど、アイツを許してやってよ」

将からそんな言葉を聞いて、聡は顔が熱くなった。それを見られないように、窓の外の夜景に目を移そうとしたが、あいにく防音壁があり、それほどよくは見えない。あのとき、一瞬だったとはいえ、たぶん将も聡の裸の胸を目にしたはずなのだ。

それを思い出したとき、悔しさではなく、恥かしさが、しかし、ときめきに似た感情が聡の心を支配した。それを振り払うように、聡は

「知らない」

と肩をすくめた。

沈黙する二人の行く先では夜を彩る光の色合いがどんどん派手になってきた。街を区切るように赤いテイルランプが 500 Internal Server Error

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