※暴力的・衝撃的な表現があります。閲覧にはご注意ください。
将は車を飛ばしていた。雨はいくぶん小止みになったようだが、それでもスピードをあげるミニのフロントガラスのワイパーの下に氷の粒がたまっていった。
将が運転するミニは、東京郊外の大きな川を遡っていた。
この県境を流れる川の中流の河川敷で護岸工事をやっている。前原の父が請け負っている工事だが、泊まりの土木作業員のための飯場が川原にあるという。
この土日はそこが留守になるとのことで、そこで「パーティ」をやるのだという。
――早く、早く!
将はスピードをあげた。濡れた服で冷え切った体は車内の暖房でカッと熱くなっていた。たぶん熱が出てきたのだろう。
しかしそんなことはおかまいなしに将はアクセルを踏み、前を行く車と対向車の間を縫って危険な追い抜きを繰り返した。
「寒いなー、ここ」
「こんなんで『パーティ』やれんの?」
金髪と赤毛が飯場に入るなりまわりを見渡して文句を言った。
すぐ近くに川が流れるプレハブの飯場は冷え切っていた。室内だというのに、息が白く、震えがくる。
一度も掃除などしてないがごとく、醤油や油が隙間なくこびりついたガス台が置かれた汚い台所が入り口を兼ねていて、その奥に小上がりのような6畳間があり、隅に布団が畳んであった。
「文句いうなよ。今ストーブいれっからよ」
前原が台所にあった丸い石油ストーブに火を入れた。
とたんに金髪と赤毛はストーブに寄ってきて「寒い、寒い」と手を温め、
「酒も飲めないよ、この寒さじゃ」
と不平たらたらだ。
「酒がだめならドラッグでしょー」
と車を運転していた髭面が笑った。
聡を抱えてきたスキンヘッドがことさら大声で続ける。
「ハゲしく動けば平気でしょ」
一同はげらげらと笑った。
スキンヘッドは、畳に聡を下ろした。薬をかがされた聡はまだ眠っている。
他の者はストーブにあたっているのに、スキンヘッドはせっかちに聡の上着のボタンに手をかけている。
「なんだよ、超せっかちだなー」
ストーブを囲んで他の者が笑う中、缶チューハイを手にしていた前原は「俺が先だぜ」と聡に近寄るとパンツスーツのジッパーを下げる。
「意識がないとやりにくいな」
スキンヘッドは聡の上着を脱がせながらつぶやく。
実際、薬で眠った聡はぐんにゃりとして、固いスーツの片袖を脱がすだけでも、スキンヘッド一人ではそうとう手間がかかった。
前原は聡の腰を少し持ち上げると、あっさりと聡の脚からスラックスを抜き去ったが、今日は寒かったせいか、スラックスの下にストッキングが張り付いていた。
「おい手伝えよ」
スキンヘッドがストーブのまわりで見物する3人に声をかけた。
「破いちゃえばいいじゃん」
といいながら髭面が近寄ってきた。
「こんなふうにさぁ」
髭面は聡のブラウスを乱暴に左右に引っ張った。ボタンがぶちん、ぶちん、と次々に飛び、眠った聡の前がはだけた。が、ここにも聡はアンダーウェアを着けていた。
「ち、ババシャツかよ、厚着な女だなー」
といいながら髭面は薄いアンダーウェアを引っ張り、そこをナイフの先で突く。薄い布はピリピリと見る間に裂けて、肌が露出した。
「なるほど、こんなふうに、ね」
前原は、聡のストッキングをショーツごと腰骨のあたりからナイフをくぐらせた。
ショーツの脇は切れるのに多少手ごたえがあったがストッキングは手ごたえも何もなく、空気のようにナイフの刃で裂けた。
スキンヘッドは後ろから手をまわして聡の胸を守るランジェリーも上にずりあげて中身を露出させた。ほとんど全裸になった聡に、赤毛や金髪も寒さを忘れて寄ってきた。
「いい体だな」
「センコーなんかよりAV出たほうがいいんじゃねー?」
「起きねえな」
髭面は、眠ったままの聡の頬を軽くはたいた。だが聡は眠ったままだ。
「突っ込みゃ、起きるよ」
前原は聡の膝を持ち上げた。意識がないから抵抗もない。目で合図をして聡の両側に陣取る金髪と赤毛に片足ずつ渡すように固定させる。
「……じゃあ、当然俺が一番でいいな」
と前原はせっかちに自分のズボンを下ろした。そのとき。
ガラリと台所の入り口のサッシが勢いよく開いて聡に群がっていた不良たちは一斉に振り返った。
将は、不良たちの中にいる聡の姿を見て、髪の毛が逆立つほど逆上した。
次の瞬間、前原の体がふっとんだ。前原は下半身を露出したまま壁に激突し、プレハブの飯場全体が揺れた。
将は振り返りざま髭面の横面にキックを決めた。髭面は台所のほうに飛んでいき、安物の水屋にぶつかった。
水屋からこれまた安物の湯飲みや茶碗が固い床に落ちて割れた。
将は裸で倒れている聡に落ちている上着を素早く掛けた。
そこへ赤毛がナイフを振りかざして将の後ろから突刺しようとしたが、将はそれをかわして足をかけた。赤毛は窓側の壁にぶつかり、その衝撃でサッシの窓にひびが入った。
金髪とスキンヘッドはナイフを片手に将のすきを伺っている。
口から血を流して起き上がった前原は、萎縮した下半身の上にズボンをずりあげながら、
「……ここじゃまずい。これ以上壊すと、オヤジに怒られちまう」とつぶやいた。
「外に出ろ」
将は前原を引っ張り上げると外に蹴飛ばすように出した。
「お前らも外に出ろ」
将はのびている赤毛をはたき起こすとこれも引きずり起こした。
5人全員を聡の体から距離を置かせると自らも外に出た。
外の雨は小雨になりながらもその冷たさは失われていなかった。
将が外に出るなりまだ一度もやられていない金髪とスキンヘッドがナイフを片手に向かってきた。
将は素早くかわしながら金髪のほうを膝で蹴ると、スキンヘッドの腹にむしゃぶりついて押し倒し、ナイフを奪い取った。
しかし、その瞬間、復活した髭面が将の腰にとりついてスキンヘッドから将を引き剥がした。
その無防備になった将の腹に赤毛の蹴りが決まった。
将は、かがみこむと激しく咳き込んだ。そこの横腹を赤毛は蹴り続ける。エビのように体を丸めて倒れた将は、そのまま咳を続ける。
「フン」
離れて見ていた前原がおもむろに近づいてきた。赤毛と入れ替わると横向きに倒れた将を、前に自らがされたように仰向けにする。
仰向けにされても将は、目を閉じて喉からひゅーひゅーと音をたてて肩で息をしている。
「いいざまだな」
とかがんで将に声をかけた前原だが、再び、横たわっているはずの将にアッパーをくらった。差し歯が夜の川のほうへ飛んでいった。
将はふらふらと立ち上がった。
……が、すぐに赤毛とスキンヘッドに両肩を掴まれた。
髭づらが動けない将の顔にパンチをあびせる。両側から、まるでサンドバックのように執拗に。
ようやく気が済んだのか、将は解放されると、立ち上がる力もなく、川原に倒れこんだ。
わずかに残る意識の中で、顔にあたる小雨がひんやりと気持ちいい。
「さあて、変な邪魔がはいっちゃったけど、続き続き」
スキンヘッドが言って、プレハブの中に入ろうとした。将は最後の力を振り絞って、スキンヘッドの足にとりついた。
どんなに蹴られても離さない。すっぽんのように将は耐えた。
やっと復活した前原と髭の2人がかりでスキンヘッドの足から将を剥がした。前原と髭面で将の肩と足を持ち上げ抱えると、10mほどのところを流れる川へと進む。
水際で何度か揺らして勢いをつけると、将の体を川に投げ込んだ。
「目には目をだっけ。人殺しは死んで償わなきゃ!」
前原はハッハハーと笑うと夜の川に向かって叫んだ。